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斯界の光と影
視覚障害者と鍼・灸・按摩指圧マッサージとの結びつきは、先ず管鍼(くだばり)という日本鍼灸の特長のひとつとされる鍼法を考案、技能を発展させ、後継者を育成、鍼灸を広く知らしめ、斯界に大きく寄与されたのが、視覚障害者であったことです。(杉山検校:慶長15(1610)年生 湘南江の島に墓碑や鎮座像)
その他にも戦後斯界存続の問題が表面化した時、過去に細々とながらも斯業を守ってきたのが、視覚障害を持つ先生方であったという事実が、斯業存続に至った理由のひとつとなっています。
私は子供の頃から、斯界の業団に父の代理であった母に連れられ、斯界の方々と交流をする機会がありました。当時会員のほとんどの方が視覚障害を持つ先生方でした。
ちなみに神奈川県鍼灸マッサージ師会は、私の解釈が適当かどうかは判りませんが、「ノーマライゼーション」という「社会福祉の理念」を斯界の特長とし、内外での望ましい将来に向けた理想的方向と位置付けています。公益社団の支部ではありますが、堂々とこれを理念としていることに私は一種の誇りのようなものを感じています。それは、過去に私が父と共に歩んだ斯業の影を照らしているかに感じられるからです。
この障害者が特有の職業を持つという例は、他に類を見ないものです。視覚障害者の中には、抜群の手指感覚と集中力、持ち前の鋭い感性等を有す方がおります。
ただ一方で、理念の何たるかをもう一度考え直さなければなりません。今や過剰広告が当たり前の時代となり、商業的すぎる宣伝をみかけます。あるいは、健常者、類似業・無資格者・内部資格者が増加の一途をとり、養成校は乱立状態です。国家資格を得るには基礎医学と専門技術の深い知識を要します。ハンディを持ちながら、せっかく国家資格を得ても次に立ちはだかる壁があるのです。斯業を目指す視覚障害者は激減し、自立や就業困難等、厳しい環境に立たされる問題が生じています。したがって、会においても視覚障害者の数は、僅かであるという現実が生じています。又、職業選択の自由からいえば、本職だけではなく、他の職域にも道を開いていかなければなりません。
どなたも華美な印象に目を奪われがちです。又、素人の目は高価であれば質が良いと考えがちです。
疾患の予防と治療や健康管理に、適応できる障害を持つ技術者の存在を知ってただきたく、又、不合理な影の存在に気付いていただければと考えます。
心身の障害は、いずれ我が身にも及ぶことを考えなくてはならない高齢化社会を迎えています。ハンディを持つ方々との共存は、すでに始まっている身近な問題です。高齢者や障害者と健常者が、お互いの理解と、助け合いの精神の大切さを見つめなおすことが、自然にできる社会であってほしいものです。
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